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最高裁判所大法廷 昭和38年(し)33号 決定 1964年3月12日

申立人(弁護人)

石川芳雄

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、別紙特別抗告申立書(特別抗告の趣旨)記載のとおりである。

論旨は、先ず刑訴二二条の規定が憲法三七条一項に違反する旨を主張する。

しかしながら、刑訴二二条が、不公平な裁判をするおそれがあることを理由とする忌避の申立について、当事者が事件につき請求または陳述をする前にすでに忌避の原因となる客観的事情が存在しており、しかも当事者がこれを知りながらなおかつ事件につき請求または陳述をした場合に限り、右原因による忌避の申立をすることができなくなる旨を規定している所以は、忌避申立権を誠実に行使せしめんがために合理的な規制を加えんとするものであつて(刑訴規則一条二項参照)、もし無制限に忌避申立を許すとすれば、当事者が忌避申立権を濫用し、訴訟の進行を害するおそれがあるからである。したがつて同条は、忌避申立権を不当に制限して公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵すものではない。のみならず憲法三七条一項は、「被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定し、公平な裁判所の裁判を保障すると同時に迅速な裁判を要請しているから、刑訴二一条において、当事者が不公平な裁判を受けるおそれがあると考える場合は忌遮の申立を許すと同時に、同二二条において、この申立を速かに行わせるため前記のような制限を設けているのは、憲法三七条一項の規定の全体の趣旨に合するものというべきであり、これに反するとはとうてい考えられない。論旨は理由がない。

その余の論旨は、違憲をいう点もあるが、実質はいずれも単なる法令違反の主張であつて、刑訴四三三条の抗告の適法な理由に当らない。

よつて、同四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(裁判長裁判官横田喜三郎 裁判官入江俊郎 奥野健一 石坂修一 山田作之助 五鬼上堅磐 横田正俊 斎藤朔郎 長部謹吾 城戸芳彦 石田和外 柏原語六 田中二郎)

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